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東京高等裁判所 平成8年(行コ)57号 判決 1998年3月18日

東京都調布市仙川町一丁目八番二六号

控訴人

高須信子

右訴訟代理人弁護士

盛岡暉道

池末彰郎

東京都府中市分梅町一丁目三一番地

被控訴人

武蔵府中税務署長 渡部義信

右指定代理人

小濱浩庸

内田健文

佐々木正男

小野雅也

古瀬英則

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が、平成二年一月一六日、控訴人の昭和六一年分ないし昭和六三年分の各所得税についてした更正処分のうち、昭和六一年分については所得金額二二五万三一三八円、昭和六二年分については同金額二一五万一五七五円、昭和六三年分については同マイナス金三七万〇六〇二円を越える部分及び右各年分の過少申告加算税の賦課処分をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり訂正するほかは、原判決の事実及び理由欄「第二事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  別表八のうち昭和六一年分(本店分)の(3)一般経費内訳<4>通信費「265,705」を「256,705」に改める。

二  同表のうち昭和六十年分(支店分)の<4>特別経費内訳<1>減価償却費「619,263」を「691,263」に改める。

第三証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の請求は棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実及び理由欄「第三争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  二九丁表七行目の「甲一五五」の次に「並びに一七四」を加える。

2  二九丁表一〇行目から一一行目の「供述部分」の次に「(同証言調書六七項)」を加える。

3  二九丁表一一行目の「矛盾があるし、」の次に「仮に、江頭は民主商工会の事務局及び顔見知り程度の控訴人の要請により、右要請から一〇日後位に他人の税務調査に立ち会ったに過ぎないうえ、証言時よりも四年以上前の細かいことについては記憶違いや記憶が無くなっていることがあり得るため、右矛盾が生じたとしても、当時江頭は、控訴人らの要請により税務職員の言動を監視するため税務調査に立ち会うことを要請されていたものであるところ、税務職員が税務調査時に書類の説明を受けたかどうかは極めて重要な事実であるから、この点につき記憶違い等があったとは到底考えられず、右矛盾は決定的なものであるうえ、」を加える。

4  二九丁裏六行目の「さらに、」の次に「甲一七四号証自体も、控訴人が右脇のテーブルの下に書類を置いていたこと及び帳簿書類をダンボールに入れて隣の部屋に置いておいたとの記載がなく、控訴人本人の供述とも大きく異なるものであって、その信憑性には疑問があり、他に」を加える。

5  三二丁表六行目の「原告の要求する」から同七行目の「直接関係のない」までを「税理士でもないうえ、控訴人の帳簿書類を記帳したものでもなく、単に控訴人から税務指導を依頼された民主商工会の担当事務局員に過ぎない志賀や同会や控訴人から立会いを要請されたにすぎない江頭を本件調査になんら関係のないものと認め、控訴人の要求する」に改める。

6  三二丁裏一〇行目の次に改行のうえ、次のとおり加える。

「また、控訴人は、調査官は立会人が本件調査に関係があるかどうか確認したうえで立会を拒否しているのではなく、全く確認していない点も違法である旨主張するが、前認定のとおり、調査官は、いずれも、控訴人と立会人との関係を質していることが認められるところ、仮に、立会人らが本件調査に関係があるというならば、そのときにその旨を具体的に説明すべきであるにもかかわらず、単に民主商工会の事務局員及び会員ないし控訴人の友達であると述べたに止まったのであり、調査官が立会人のその回答から本件調査と直接の関係がないと判断したことは相当であり、調査官が立会人に本件調査との関係を確認していないわけではなく、この点に関する控訴人の主張もその前提を欠き失当である。

更に、控訴人は、平成元年の始めころまでは、本件の担当調査官も含め被控訴人の担当地域の税務調査では第三者の立会いを認めていたのであるから、本件において、一律画一的に立会いを認めなかったことは違法である旨主張し、甲一三六、一三九、川尻証言及び小柳証言によれば、右控訴人主張に沿う事実が認められるが、質問検査の範囲、程度、時期、場所等の実定法上特段の定めがない事項については、税務職員の合理的な選択に委ねられており、第三者の立会いを認めるかどうかも税務職員の裁量事項であって、過去に立会いを認めていたことがあったとしても、第三者の立会いには前記のような問題があるので、立会いを認めないことにしたことが、裁量権を逸脱したものとはいえず、これを違法ということはできない。」

7  三三丁裹二行目の「五号証の一ないし三」の次に「、当審証人後藤司の証言」を加える。

8  三三丁裏五行目の「通達を発し、」の次に「これに基づき、当該税務署の担当官が本件各抽出基準を満たす対象者すべてについて照会回答書を発し、これに回答を寄せた同業者の数字をもとに」を加える。

9  三三丁裏一一行目の次に改行のうえ、次のとおり加える。

「なお、控訴人は、右通達(乙二)に基づき武蔵府中税務署において本件抽出基準に関する報告書の作成事務を担当した当時の同税務署個人課税第1部門の上席国税調査官であった後藤司が、右通達に定める比準同業者の売上原価を見る際に、青色申告決算書用紙の売上原価欄中<6>の差引原価欄を見たと証言したことにつき、右<6>差引原価欄を見るべきではなく、売上原価欄中の<3>仕入金額(製品製造原価)欄を見るべきであり、批準同業者の抽出の仕方が杜撰であって、比較すべきところを比較せず、比較すべきでないところを比較して抽出した業者は比準同業者とはいえない旨主張するが、乙二によれば、対象者の抽出要件として「(4)売上原価が次の範囲にある者」と記載されているにすぎないところ、売上原価とは、期首商品棚卸高にその年分の仕入金額を合算し、これから期末商品棚卸高を差し引いたものを指すのであるかち、まさしく<6>の差引原価を意味するものであって、後藤司上席調査官の判断は正当であり、その点に関する控訴人の主張は採用できない。

更に、控訴人は、職業別電話帳に記載されている美容院の数に比べて、本件各抽出基準により抽出された同業者数が極めて少ないことから、本件各抽出基準を満たすすべての者を抽出したということは疑わしい旨主張するが、前認定のとおり、本件比準同業者は、美容院を営む者から前記のような抽出基準を充足する者に限り抽出したものであり、電話帳記載の美容院数と抽出された比準同業者を単純に比較して、抽出方法の当否を論ずることは相当ではなく、控訴人のこの点に関する主張は採用できない。」

10  三四丁裏六行目の「証人宮下千鶴子の証言」の次に「、弁論の全趣旨」を加える。

11  四三丁表二行目の「一四ないし三二四)」を「一四ないし二三二、二三四ないし二七三、二七四の一及び二、二七五ないし三二四)、入金伝票(甲三号証の三一〇)」に改める。

12  四三丁表四行目から五行目の「七一号証の一ないし一二」の次に「、一一六号証の一ないし一二」を加える。

13  四五丁表三行目の「売上が」の次に「故意または過失により」を加える。

14  四五丁裏同三行目の「存在するのであり」の次に、次のとおり加える。

「(控訴人目身も、<1>昭和六一年度の本店の合計三〇九枚のレジベーバー(甲三号証の一ないし三〇九)と一枚の入金伝票(甲三号証の三一〇)の合計三一〇枚と現金出納帳(甲一四四号証)には一一箇所の相違があり、<2>同年の支店の合計二八枚のレジベーバー(甲二六号証の一ないし二八、同年度のレジベーバーは一月分のみである。)と現金出納帳(甲一四六号証)には四箇所の相違があり、また、同年二月以降のレジベーバーに相当すると控訴人が主張する日計表(甲一四五号証)と現金出納帳(甲一四六号証)には四六箇所の相違があり、<3>昭和六二年度の本店の合計三〇八枚のレジベーバー(甲四八号証の一四ないし三二一)と日計表(甲一四七号証)には五箇所の相違があり、<4>昭和六三年度の本店の合計三一一枚のレジベーバー(甲九二号証の一四ないし二三二、二三四ないし二七三、二七四の一及び二、二七五ないし三二四)と日計表(甲一五二号証)には一七箇所の相違があることを現に認めている。)」

15  四五丁裏六行目から七行目の「多数存在するところ」を「認められるところ」に改める。

16  四五丁裏九行目末尾に次のとおり加える。

「なお、控訴人は、現金出納帳、ノルマ対実績表及び売上月計表としジペーパーとの間に相違は存するものの、その相違箇所は多数とはいえず、かつ割合的にも僅少に過ぎない旨主張するが、たとえ僅少であっても相違箇所が存在すると現金出納帳等との照合によるレジペーパーの正確性の検証ができないことには代わりはないから(ましてや、控訴人が自認するほどの相違箇所が存在すれば尚更である。)、控訴人の右主張は当裁判所の右判断を左右するものではない。

17  四六丁表四行目の「一四ないし三二四」を「一四ないし二三二、二三四ないし二七三、二七四の一及び二、二七五ないし三二四」に改める。

18  四六丁表四行目の「原告本人尋問」を「原審及び当蕃における各控訴人本人尋問」改める。

19  四六丁表六行目の「多数見受けられるし」の次に、次のとおり加える。「(控訴人自身も、<1>昭和六一年度の本店のレジペーパー中、合計額についての訂正追加箇所が五六箇所、個々の売上金額についての訂正追加箇所が一四箇所、<2>昭和六一年度の支店のレジペーパーの訂正追加箇所が五箇所、<3>昭和六二年度の本店のレジペーパー中、合計額についての訂正追加箇所が三二箇所、個々の売上金額についての訂正追加箇所が六箇所、<4>昭和六三年度の本店のレジペーパー中、合計額についての訂正追加箇所が二七箇所、個々の売上金額についての訂正追加箇所が四箇所、それぞれ存在することを自認している。)」

20  四六丁表一一行目の「原告本人尋問の結果」から四七丁表九行目末尾までを次のとおり改める。「もっとも、控訴人は、<1>レジペーパーの売上金額の合計額や個々の売上金額を手書きで訂正したものや、追加記載したものは、控訴人やその従業員たちが、当日の内に、レジペーパーやノルマ対実績表を誠実に検討して真実に適合させるために行ったものばかりであり、売上額を実額より少なく見せるために行ったものは皆無であるから、たとえこれがいくら多数存在していたとしても、それ自体ではその資料価値を減ずるものではない、<2>昭和六一年度ないし昭和六三年度の本店のレジペーパーには、レジスターを閉めた符号Zが印字されていないものが存在するが、この符号がなくても、これに代わる印字があるなど、控訴人や従業員がレジスターを閉めたことには変わりはなく、レジペーパーの正確性には影響がない、<3>本店のレジペーパーに合計金額の印字がされていないものが昭和六一年度に一牧、昭和六二年度に三枚あるが、これは、合計の算出操作自体は行ったのに、合計が印字されなかったもので、その場で手書きで合計額を明らかにしているから、レジペーパーの正確性には影響がない、<4>レジペーパーの日付が誤っているものについては、昭和六一年度の本店に一枚、昭和六二年度の本店に一枚あるが、手書きで日付を明らかにしてあるから、レジペーパーの正確性には影響がない、<5>金額を打ち込まないでレジスターを開閉し、現金を出し入れしたのは、両替のためで、替と打刻されるのみで、金額は合計に計上されない旨主張するので逐次検討することとする。

<1>の点につき、控訴人は、レジペーパーの手書きや追加記載は、控訴人やその従業員たちが、当日の内に、レジペーパーやノルマ対実績表を誠実に検討して真実に適合させるために行ったと主張するのであるが、例えば、昭和六一年度の本店のレジペーパーを取り上げても、その合計額についての訂正追加箇所が五六箇所、個々の売上金額についての訂正追加箇所が一四箇所存在することは控訴人が自認するところ、このように多数の訂正追加箇所が存在することは、控訴人のレジペーパーの打刻が正確に行われていなかったことの証左ともいうべきであるうえ、控訴人は、その訂正や追加理由につき、「物販を〇〇円追加」とか「技術を〇〇円追加」などと主張するが、その訂正や追加が控訴人主張のとおりの理由に基づくことを控訴人本人の供述以外に裏付けるものはなく、しかも、その控訴人本人の供述中の手書き訂正や追加に関する部分には曖昧なところもあり、到底、控訴人の右供述を信用することはできず、この点に関する控訴人の右主張は採用できない。

<2>の点につき、控訴人は、レジスターを閉めた符号Zがなくても、これに代わる印字があるなど、控訴人や従業員がレジスターを閉めたことには変わりはない旨主張するが、レジスターを閉めてZの打刻をすることにより、その日の全売上がレジペーパー上証明されることになるのであるから、Zの打刻がない以上、たとえ他の記号が打刻されたとしても、レジペーパー上の全売上を証明することとはならず、この点に関する控訴人の主張も採用できない。

<3>の点につき、控訴人は、レジペーパーに合計金額の印字がされていないものがあるが、これは、合計の算出操作自体は行ったのに、合計が印字されなかったものである旨主張するが、控訴人主張のように合計の算出操作自体は行ったのに、合計が印字されなかったような事態が生ずることが不可解で、あるはかりでなく、合計額が印字されなかったこと自体、レジペーパー上にその日の売上金額が正確に表示されていないことを示しており、その場の手書きによる合計額の記載から、レジペーパーの記載の正確性を判断することはできず、この点に関する控訴人の主張も採用できない。

<4>の点につき、控訴人は、レジペーパーの日付が誤っているものについては、昭和六一年度の本店に一枚(昭和六一年九月七日)、昭和六二年度の本店に一枚あり、昭和六一年九月一七日分については、その日のレジペーパーが重複印字されたため解読不能となったため、その場で正しい日付を手書きした旨主張するが、同日の売上金額は、レジペーパーでは二万〇六〇〇円(甲三号証の二二〇)、月間ノルマ対実績表では三万五三〇〇円(甲四号証の一〇)、現金出納帳では三万七七六〇円(甲一四四号証)とそれぞれ大きく食い違っており、その場で正しい日付に手書きしたというには余りにも不自然である。このことは、単に日付の誤りに止まらず、レジペーパーの内容の正確性にも疑問を生じさせるものであり、いずれにせよ、この点に関する控訴人の主張も採用できない。

<5>の点につき、控訴人は、金額を打ち込まないでレジスターを開閉し、現金を出し入れしたのは、両替のためであって、替と打刻されるのみで、金額は合計に計上されない旨主張するが、金額を打ち込まないでレジスターを開閉する場合がすべて両替のためであるとは認められないし、仮に、そうであるとしても、両替名下の出金等が絶対にないとまではいえないから、この点に関する控訴人の主張も採用できない。」山四八丁表一〇行目の末尾に次のとおり加える。「もっとも、控訴人は、<1>昭和六一年度の支店の売上金額を現金出納帳に記載するにあたり、値引き前の金額を記載したのは、売上は値引き前のものを記載すべきだと思い込んだからであって、このことはコンピューター日計表の売上額そのものの信用性には影響しない、<2>コンピューター日計表の売上合計金額と値引き後の純売上額のいずれとも異なる金額が現金出納帳に記載されているが、これは、いずれも値引き前の売上額の金額の端数のみを切り捨てた金額や近似値を記載しているもので、全く関連性のない金額を記載したものではなく、しかも、控訴人は、値引き後の金額を正しい売上額と主張しているのであるから、原始記録である値引き後のコンピューター月計表やコンピューター日計表の売上額値引き後の金額の正確性にはなんらの影響がない旨主張するが、<1>の点については、控訴人は、前記のとおり、従業員が、日々、確認した現金残高に基づきコンピューター日計表に書き入れた金額とその現金残高を照合していたというのであるが、控訴人が値引き前の金額を記載すべきであると誤信していたとしても、実際に存在した現金残高との照合を行っていないことは控訴人の主張自体から明白であり、現金残高と照合していないコンピューター日計表の金額が正確であるとは確認できないから、この点に関する控訴人の主張は採用できないし、また、<2>の点についても、控訴人の右主張自体、控訴人の現金出納帳の正確性を自ら否定しているものであるうえ、前述のとおり、その齟齬に関する控訴人本人の説明によれば、コンピューター日計表記載の金額と実際の現金残高が異なっていたことになり、やはり、コンピューター日計表の正確性に疑問が残ることとなり、控訴人のこの点に関する主張も採用できない。」

二  結論

よって、控訴人の本件請求を棄却した原判決は正当であるから、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条一項本文、六七条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 町田顯 裁判官 末永進 裁判官 藤山雅行)

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